葵うたの、女優の新境地開拓 映画『僕の中に咲く花火』で示す成長と深まる死生観

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葵うたの
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新鋭・清水友翔監督が地元岐阜を舞台に描いた映画『僕の中に咲く花火』が渋谷ユーロスペースほか全国順次劇場公開中。若手女優の葵うたのが、本作で新たな一面を見せ、注目を集めている。

本作は、Japan Film Festival Los Angeles 2022で受賞歴を持つ清水監督が自身の経験をもとに脚本を執筆し、初の長編映画監督も務めている。主演は初主演の安部伊織(大倉稔役)、葵うたの(水石朱里役)、角心菜(大倉鈴役)。脇を渡辺哲、加藤雅也が固める。

ストーリーは、田園風景豊かな岐阜の田舎町を舞台に、亡き母を忘れられない少年・大倉稔が、死者と交流ができるという霊媒師を訪ね、非行の道へと進む。そんな中、東京から帰省した年上の女性・朱里と出会い心の寂しさを埋めていくが、ある不幸な事件をきっかけに稔の心は引き裂かれ、狂気が姿を現し始めるという、ひと夏の青春物語だ。

ドラマ『ガールガンレディ』(2021/MBS・TBS系)でドラマレギュラーデビューを果たし、その後も映画『レッドブリッジ』(2022)、ドラマ『パリピ孔明』(2023/フジテレビ)に出演、今年公開の映画『タイムマシンガール』では主演を務めるなど、着実にキャリアを築いてきた葵さん。本作では、東京から帰省し、思春期の少年・大倉稔と出会う大人な女性、水石朱里役を演じ、従来のイメージを覆す役作りと、映画の根幹をなす「死」というテーマに対する自身の向き合い方を語った。

葵さんが演じた朱里は、ミステリアスな面と主人公に影響を与える存在感を併せ持つ、複雑な役どころ。キャスティングはオーディション形式で、「1次、2次、3次とあって、本編にも出てくるシーンの台本をやったりしました」と、その過程を明かす。これまでの学園ものなどとは一線を画す「大人な役どころ」に、葵さん自身も「非常にやりがいのある、チャレンジした作品になった」と振り返る。インタビュアーが「『ガールガンレディ』を見ていました。大人っぽくなりましたね」と伝えると、葵は「ありがとうございます!」と笑顔で答え、「もう、ずいぶん経ちましたね」と茶目っ気たっぷりに返し、今回の朱里役で自身の成長を感じてもらえることに期待を滲ませた。

役作りにおいては、まずビジュアル面で幼い印象からの脱却を図った。「映画にとってインパクトがある役柄なので、監督とディスカッションをたくさんしました」と入念な準備を語る。普段はボブヘアが多い葵だが、朱里役では「少女らしさから離れた髪型や、ちょっとパサついて色落ちしたような髪質にこだわりました」と明かす。さらに、衣装についても「着こなしをちょっとだらしがないというか、生々しさが出るような感じにしたくて。その人の生き方が反映されるビジュアル作りを徹底してました」と、見た目から役柄の背景を表現した。

内面については、台本に詳細な役の説明があったものの、彼女は「日記じゃないですけど、ノートにひたすら、役が思ってきただろうことをずっと書き綴ってました」と語る。その過程で「恨みつらみが多かったんですけど」と率直に述べながらも、演じる上ではエモーショナルになりすぎないよう、「もっとカラッとした人前での立ち振る舞いをする女性のイメージだった」と説明する。

「ある程度自分で用意した喪失みたいなものは抱えつつも、神経の張り方や気遣い、配慮の部分は自分に近かったので、役柄とかけ離れた大きな努力はあまりしていない」と、自然体の演技であったことも語った。作中に登場する喫煙シーンについて彼女は「大変ではありました。吸い方一つでキャラクターも出るし、何本も吸うので」と苦労を語りつつも、「けど、いい経験でした。ずっとこういう(朱里のような)役に出会いたいと思ってたので」と、ポジティブな姿勢を見せた。

また、撮影当時、東京でのドラマ撮影と並行していたため、新幹線で岐阜へ移動する環境が、朱里が東京から岐阜へ帰省する設定と重なり、「その環境も、ジュリ的には良かったのかな」と、役に入り込みやすかったことも明かしている。

岐阜でのロケ撮影では、実際に使われていたトンネルでのエピソードが特に印象的だったようだ。「昔使われてたのを実際に起こしいただいてて、雨越しに見た山の奥が真っ暗で、すっごい怖かったのを覚えていて、なんかこう闇にこう吸い込まれていくような、ひっそりとした暗闇というのが、ちょっと怖かったの覚えてますね」と、当時の恐怖を回顧。

岐阜の夏が非常に暑く、撮影中に台風が2回も来たと振り返り、「じめじめしてたんですけど、まさに“日本の夏”みたいなのが映画に映ってたので、すごいと思いました。じめっとした質感みたいなのが、そういう映画が見たかったので、自分がそれに出てるのも嬉しかった」と、作品と自身の体験の融合に喜びを示した。

共演者について、おでん屋店主役の渡辺哲さんには「安心感がすごかった」と絶賛の言葉を送った。「何をしても返してくれる安心感と、お人柄がすごく良くて、こんな店主がいる居酒屋あったら通っちゃうなと思った」と笑顔で語る。渡辺さん演じる店主との居酒屋のシーンは、映画の中で唯一温かい時間が流れるシーンだとし、「劇中で食べた大根が美味しかった」と明かした。

主人公・稔を演じた安部伊織さんが本作で初主演であったことにも触れた。当時監督と同い年の22歳くらいだった安部さんは、「現場でも当時すごい揺れていて、初主演映画ということもあって」と、葛藤を抱えながらも真摯に役と向き合っていた様子を語った。稔の繊細な感受性、そしてその故の衝動性がリアルに表現されていたことに、「この時期にしかできなかった役ではないか」と評価。「そこに立ち会えて一緒にお芝居させてもらえたのは、すごい光栄でした」と述べた。

映画の重要なテーマである「死」について問われると、葵は祖父の死に立ち会えなかった経験を語った。「立ち会えなかった」祖父の死をきっかけに、歳を重ねるごとに死を身近に感じるようになり、そうした時、「いつもちょっと間に合わないんだなっていうのをすごく感じました」と強く感じたと述べている。さらに「もっと話したかったこともあったし、いつまでもいるってどっかでなんか、まだまだって思っちゃうじゃないですか」と、人間らしい感情を吐露し、「だからこそ、言いたいことは生きているうちに言わないと!」と、自身の死生観を語った。

今後の展望として、『僕の中に咲く花火』は自身の女優人生の転機となる作品だと感じており、「女優人生の礎になる作品だなと思っている」と位置づけている。今後も「もっともっと魅力的な人間になれたらなって思っています」と自己成長への意欲を示し、そうした作品に携わっていきたいと語った。

さらに「コメディもやってみたい」と意欲を見せた。自身が初主演を務めたコメディタッチの映画『タイムマシンガール』は今年1月に公開されて以来、全国の映画館を周りながら上映が続いている。今後も、9月27日・28日のタイ国際映画祭、10月4日の福岡インディペンデント映画祭、10月11日から17日までの横浜・シネマノヴェチェントでの再上映などが予定されている。

最後に、観客へのメッセージとして、「自分の居場所がどこにあるか分からないみたいな迷いがある若者にぜひこの映画を見てほしいなと思います」と語りかけ、「どの世代の人も人に全然感情移入するキャラクターが違ったり、感じることも全然違うと思うので、幅広い年代の人に見てほしいです」と締めくくった。

映画『僕の中に咲く花火』オフィシャルサイト https://bokuhana.ayapro.ne.jp/

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